upspeak 第8回公演 「月灯りに隠せっ!」 
〜脚本・高橋学 演出・upspeak〜
観劇レポ


「死体の入った袋を隠してこい」・・・
と恋人に命令され、実行するふたりの男。
彼らは彼女に二股をかけられていたにもかかわらず、
彼女に言われるまま黙々と死体を隠す旅に出発する。
時には力を合わせ、時にはケンカをしながら旅は続く。
やがてふたりの間には友情らしきものが芽生えるが・・・。

〜公演パンフレットより

 


ニュームーンに腰掛ける主役2人の写真の上に、
このあらすじだけか書かれた
びんせん仕様のパンフレット。
キャストもスタッフも寄稿も何一つない、
アンケートさえも入っていない
シンプルなパンフレットでした。



そしてストーリー。


上記のパンフの覚書以外に、加筆する事は何一つない。
あらすじにしてあらすじに非ず。
そのまんま劇の起から結までを表しています。
「起承転結」の承りも転びもない。

私なら最後の一行を
「やがてふたりの間には友情らしきものが芽生える」
と締めくくります。
だって友情らしきものが芽生えたところで終わったんだもの。
「が・・・。」の語尾で予期させるような顛末は何も無かった。
強いて言えば、その
「が・・・。」の部分は各自想像するネクストストーリーなのかも。と思うくらい。



このお芝居ではっきり分かる事は、男達に友情が芽生えたという事だけ。
その他諸々の設定はひとつも進展しない。
これはたまげた。




男2人が語る「エリ」(温井彩/萩原由委子)の印象が
少々いいかげんな自動車整備工の藤田(長谷川首司)は「身長170cmくらい、男っぽくて乱暴」
神経質で気弱そうな塾講師の小早川<コハヤカワ>(安田顕)は「小柄で優しくて暖かい」
全く別人を思わせる。

「訳はあとで話す。絶対ばれないから。あの人と一緒なら大丈夫だから。お願い。」

それ以上の説明もなく、ゴリ押しされて、
後部座席にずた袋入りの死体を伴って
小早川の車であてのないドライブに出かける2人。
ずっとずっと車に乗ったまま。
戸惑いながら彷徨いながら、
隠し場所をあれこれと試行錯誤しながら、
時に運転を交代しながら走り続ける。
小早川が「死体が動いたように見えた」と言い出した事がきっかけで
「本当に死んでいるのか。この死体はエリじゃないのか」と疑問を抱き、
2人で中身を確認しようとするけど
中身を確認して「死んでいる。エリじゃない」と断定したのは小早川だけ。
藤田は見ていない。



本当に2人の男に二股をかけていた「エリ」は同一人物なのか。
そのずた袋の中身は一体どこの誰なのか
どうしてエリの元に死体があるのか
誰が手をかけたのか
なんで2人で行かなければならないのか。
どうして絶対バレないと、
藤田には「小早川と一緒なら大丈夫」と
小早川には「藤田と一緒なら大丈夫」と言い切るのか。

そして、死体は小早川からの見た目からはエリではなかったけど
果たして藤田から見てもエリではなかったんだろうか。
もっと言えば、
中身は本当に死体なんだろうか。
小早川は本当のことを言ってるんだろうか。



そんな全ての疑問は、全て疑問のまま舞台の幕は閉じます。
その時間およそ1時間10分。
前もって「短いお芝居です」とも何とも説明を受けなかったので
暗転の直後に2人が立って礼をしていた時は
キツネにつままれたような気分で、反射的に拍手をしていました。



死体の隠し場所と方法に悩む二人が行き着いた結論は、
「エリの家のまん前の道路に、誰も死体を見つけられないくらい深い穴を掘って埋める」でした。
鍵が付いたまま藤田の会社に置いてあるショベルカーを、
免許を持っている藤田が操作して深い深い穴を掘る。
これなら犬の嗅覚で見つける事もできないし、深い山奥で埋めた遺体を発見してしまう山菜名人もいない。


とりあえず死体を隠して約束を果たしたら、
二股の事実を追求するつもりだった。
でもそんな事はどうでもよくなった。
俺達をこんな目に遭わせた女の家のまん前に隠してやろう。

遠く稚内まで来たにも関わらず、札幌にとって返す二人。

何があったかなんでもうどうでもよくなって、
不可解なドライブを強いられた二人の男の間に
確かとは言い難い結束と、生まれたての友情が残った。
そこで終わり。



その結果だけが全てなんだと思えば、
全ての疑問はどうでもいいのかなぁ、なんて思えない事もないです。
冴えなくていつもバカにされがちで、友達と呼べる人が一人もいない小早川と、
日常の中で出会っていれば、そんな小早川をバカにする立場にあったであろう藤田に
こんな奇妙な状況だったから芽生えた友情。
という所に話が絞られてたのはいいんだけども。

駄菓子菓子、すっきりしなぁい〜〜〜っ(笑)
だって観客は絶対
「この先どうなるんだろう」と結果を憶測しながら
事の真実が明らかになる瞬間を見過ごすまいという緊張感で見守っているはずなんだもの。
良し悪しは別にして裏切られた。狙いなんだろうか。



これはもしかして、
全ての疑問は来年公開の同名同キャストの映画で明らかになるのか・・・。
舞台と映画、ふたつでひとつなのか。
初の試みってそういう事だっのか。
なんて事も思いました。

だってですよ・・・。
ひとつの死体と一人の女と二人の男のサスペンスとして見せるのでないとしたら、
この舞台の内容をそっくりそのまま、ロードムービーとして見せるのならば
よっぽど趣向を凝らした秘策でもなければ
「ん〜〜〜どうでしょう」by長嶋
と思いましたもの。
絶対に映画では全て明らかになるんだと期待してしまう。
偉そうですが(笑)



あと、細かい事を。

細かい事で気になる事ったら他にもあまりにもありすぎるんだけど、
(
あんなに色々やっててよく夜が明けないなぁとか、
よくガソリン持つなぁとか、
民家の前でショベルカーなんてどうもならんほど目立つだろうとか
)
そういう細かいものにこだわる以前に分からない事が多すぎるので
どうでもいい気がします。

だけどこ、とどうしても気になっちゃった。
札幌から高速に乗って、もうすぐ旭川だという所で
「このままずっといけば稚内の海。
重りをつけて海に捨てよう」という事になって、
セメントやら必要なものを用意するために車を降りた時に
「潮の香り」と言っていたから
てっきりもう稚内に着いたんだと思ったんですが
その後また高速に乗ってて、舞台のラストに稚内に着くんですよね。
高速で旭川に向かう途中で、一体どこの海に寄ったというの・・・?
私の勘違いなのかなぁ。
ワカンナイ(笑)



ストーリーの感想終わり。



次はその他の感想てす。



舞台セット。

台形の底をぶち抜いたような形の大きな布張りの箱を横に倒したような、
閉塞的な空間。
その中に、パイプで骨組みされた車の形。それにとってつけたようなハンドルとシートだけ。
それで窮屈な車内を現してました。
中の車状の物体(笑)はシーンに合わせて回転するので、
正面から、助手席側から、背後から、と角度を変えて見せてました。

たまに車から降りるシーンでは、
その台形状の箱の前で、横で、後ろで、二人の役者のやりとりが。
箱の後ろや横でやりとりがある時は、
役者の向こう側から箱に向けてライトが当たるので
影絵のようでキレイでした。ちょっと幻想的。



SE。

二人が死体をどうするか試行錯誤して、「この方法はダメだ」と結論が出る度に
緊張感のある曲が高鳴るんですが、
これがなんか・・・。
場面にマッチしてないと言うか、
単に一つの方法を諦めてるだけなんだから
そんなに緊張感を持たせなくてもなぁと思いました。
流れにメリハリを持たせる為なのかもしれないけど、
もうちょい音が小さくても全然よかった。



小ネタ。

一番の見せ所です(笑)
山で穴を掘る時に、シャベルがひとつしかないのでじゃんけんで負けたら10回掘る、
というルールを決めたのですが、
そのじゃんけんがどうやらアドリブじゃんけんだったらしいです。
最初は顕ちゃんの連勝で
「君は練習の時から負けっぱなしじゃないか。負ける気がしない」と言うと
長谷川さんがマジ笑いしてました。
顕ちゃんが調子づいて
「目をつぶってじゃんけんする」と言って勝負して負けてしまったんですが
悔しがる顕ちゃんに、長谷川さんが
「ズルしてないからなーーー!!」と(笑)

アドリブにしても、前後が淡々とした舞台なんだから
もうちょっと抑えてもいいんじゃないー?と思いつつも、
一番面白かったシーンです。

もうひとつの見せ場は
次のシーンでしょーか(笑)

山に死体を埋める事を諦めて、車に積みなおそうとするけど
穴の掘りすぎで手に力が入らない。
声を掛け合っていちっ、にいっと歩みを進めるうちに、
勢い余って車を素通り。
尚も「いちにっさんしっごうろくっしちはちっっっ!!!」
と死体を運び続けるシーン。

「あぁーやるぞー、ほぅら通り過ぎたー!!」みたいな、
観客の予測を裏切らない事で笑わせる手法ですよね。
おもしろシーンだと分かりきってるから安心して笑うって場面も
舞台には必要なのかなぁ。



キャスト。(と区切るほどの感想でもないけど)

顕ちゃんのネクラ役はハマッてました。
手のもじもじ感とか、細かいです〜。地で訳なくできるのかと思うくらい。
でも数を数える時の口調まで舌っ足らずなのは気になりました。
長谷川さんは時々台詞が聞き取れない時が。
高速で車窓から手を出して「バスト80cmの触り心地」を試す時の
「ひゃっほう!!!!」はよかったなぁ(笑)



総合して面白いのか面白くないのか。
アンサーは
「分かりません」です(爆)
いやーすいません、ごめんなさい(笑)
これは舞台と映画でひとつの作品なのか、という事さえ分からないので
どう捉えたらいいか分かんないす。

映画として同名で作品化されることは抜きにして
映画は映画、舞台は舞台として別に考えるならば。
面白いとか面白いとかではなくって、楽に観れてよかった。

登場人物の心情に共感できた訳でもないし、
何かのテーマを訴えるタイプのお芝居でもないし、
気付けば舞台に惹き込まれているという事もなく、
淡々と傍観していました。
友情が生まれてそこで全て完結しちゃってるので、
後で考える事がなにもないってとこに「えー、いいのー?(笑)」なんて思ったりして。
観た後に何かを一生懸命考えようとする事自体、間違ってるのかもしれないけど。
でも考えたいでしょー(笑)

静かで単調なお芝居だったので、
役者さんの細かい動きに注目して観れるのが面白かったです。
動きギャグに対していちいち突っ込みの台詞で解説しなくていいってのも小劇場の特権なんでしょうか。
芝居が止まらないのでよかったです。
好きなシーンは、ドライブのトイレ休憩の時に
小早川が、洗った手を藤田のシャツの背中で拭いて、それを振り払った藤田が怒りながらハンカチを差し出すシーン。
なんとなく好きです。



以上です。
まとまりがないねぇ全く(笑)



                  2003.07.25