劇団イナダ組 第26回公演 「ライナス」
〜脚本・演出 イナダ〜
観劇レポ <ストーリー編>

 

毎回似たような事を書いてますが・・・
お芝居のあらすじを、
脚本家でもない人が勝手に書いちゃうという
ある意味タブーを犯しているんで
あらすじ自体が私の主観が入ってる感想と捉えてくださいね・・・(汗)



ライナス。
イナダさんはパンフレットで
「タイトルの『ライナス』。分かる人には分かるし、
分からない人は誰か分かる人に聞いてください」
と書いてます。

私は公演名を聞いた時に「聞いた事があるなぁ」とは思ったけど
なんの事かはっきり分かりませんでした。
んで、調べました。
随分前の日記に「ライナス」を解説しているサイトさんへリンクを貼ってあったのだけど
私同様「ライナス」の意味を知らなくて
気付いてご覧になった方はいますでしょーか。


スヌーピーでお馴染「ピーナッツ」に登場する、ルーシーの弟、ライナス。
ブランケットを抱きかかえるあの典型的ポーズで"安心毛布"を世に広めた。

姉にはいじめられ、チャーリーブラウンの妹からのラブコールに困惑し、親指をしゃぷってかぼちゃ大王の存在を本気で信じているけれど
哲学的話題やあっと驚く解決策でみんなを煙に巻き、人生を見通す能力を持ち、クリスマスの本来の意味を知っている。


こんな相対する2面性を持ち合わせる彼は、人間の矛盾を体現している。


こんな豆知識を頭に入れた所で
(なんて言ってもご存知の方の方が多いですよね)
あらすじですが。





物語の時間は複雑に交差します。
現在、30年前、35年前、シーンとしては登場しないけど、登場人物の口から頻繁に語られる40年前の出来事。

それらの事が、
主人公・松永竜一(音尾琢真)が
行きつけのオカマバーのママ「ジュンちゃん」(川井J竜輔)に語る話として進んでいきます。
主人公と言っても、語り部的存在だったのですが・・・。



お芝居の経過に沿ってあらすじを書くというのは、今回非常に難しい。
なので、まずそれぞれの話をまずまとめてみます。



---現在---

40代半ばに差し掛かった松永竜一(音尾琢真)。
高校を中退している17歳の娘の、帰りが遅い事に苛立ち
電話するように妻の伸子(出口綾子)に促すが
妻はのらりくらりと取り合わない。
めったに家にいない厳格な仕事人間の竜一は
娘の帰宅がいつもこんなに遅い事を知らなかった。

そんな竜一を尻目に伸子が呑気に読み上げる新聞記事の内容は、
30年前に埋めたタイムカプセルを掘りだす、と中学校の同窓生に呼びかける広告。
妻に、あなたは何を入れたの?中学時代はどんなだったの、尋ねられて
竜一は、30年前のひと夏の出来事を思い出す。


ここで物語りは30年前と交差し始める。
(けどめんどうなことになるので分けずに書きます)


夜遅い時間に帰ってきた娘のまなみ(山村素絵)は、
父親に挨拶さえしない。
母親は何も咎めようとはしない。
部屋から出てきたかと思えば黙ってテレビを観て、母親に夜食の催促。
気軽に、父親の朝食にするはずだったパンを差し出す母親。

そんな娘に「じっくり話し合おう」と切り出すと
娘に先手を切られて衝撃の告白をされてしまった。

「私、赤ちゃんできたから。以上。」

問い詰められ、
相手の男とは別れたから関係ない、生んで育てるの一点張りのまなみ。
「なんで妊娠なんかしたんだ、どうするんだ」
それしか言えない竜一。
話は平行線を繰り返して、
竜一はつい娘に手を挙げる。
「父さんとこれ以上話しても無駄よ!」
居間を飛び出すまなみ。


怒りの矛先は、事情を知って黙っていた妻にも及ぶけれど
「どうするんだ」「勝手にしろ」これしか言えない自分を指摘されて
やはり
「勝手にしろ」と吐き捨てる。



俺にどうしろと言うんだ。



---30年前---

東京・三鷹の駅。
14歳、中学2年の竜一(江田由紀浩)と中年女性がベンチに腰掛けて待ち人をしている。



竜一と、6歳年上で大学生の姉・千明(小島達子)の両親は
竜一が5歳、千明が11歳の時に離婚した。
その後母親は女手一つで子供を育てるが、
5年後に死亡。
竜一はコナカという田舎に住む、母親の妹である小坂のおばさん(庄本緑子)に引き取られ千明は全寮制の高校に進学した。


それから5年経ったある日。
突然、音信不通だった父親が二人を引き取りたいと申し出てきた。


そして竜一と小坂のおばさんは、
父親との待ち合わせ場所である三鷹の駅に降り立っていた。


遅れて待ち合わせ場所にやってきた千明は
「この話には反対だ」と無理やり竜一を連れて帰ろうとする。
姉を振り切り、返事もせずに黙って本を読み続ける竜一。

そこに見知らぬ一人の男(森崎博之)がやってきて、
3人を見つけて大喜びしている。
「安西徹男です」と自己紹介されてもさっぱり分からない。
よく事情が飲み込めない3人の前に更に現れたのは

大きなつばの派手な帽子と鮮やかなオレンジ色の上着、
白いタイトスカート、ハイヒールに身を包んだ
昔父親だったひと。

2人の父親の春夫(大泉洋)は、オカマの春ちゃんになっていた。



春ちゃんの経営するオカマバー、「チェリーボーイ」に着いた一行。
小坂のおばさんは炎天下の暑さとショックで倒れている。
千明に「どういう事」と問い詰められてもつい誤魔化してしまう春ちゃん。
春ちゃんに「てっちゃん」と呼ばれる、彼女(?)の旦那様である徹男は
千明をなだめ、親子の間を取り持つ。
「明日になったら帰る」と言い張る千明、
「竜ちゃんだってそうよね」と同意を求められても
相変わらず何も言わない竜一。



(この辺りから、物語の語り部である大人の竜一が
30年前の出来事を傍観し、
昔の記憶を少しずつ思い出しながら、当時の竜一の心境を振り返る)



大人の竜一
「いつだって僕の意見は聞き入れられなかった。だから選ぶのをやめたんだ」


その夜はチェリーボーイの従業員・
気遣い屋でムードメーカのハッチ(岩尾亮)や
ハッチにくっついて歩くおこげ(お釜にくっついてるからおこげって、知りませんでした) の、ホルスタイン系女子・ペコ(野村千穂)、
新人のゴロ子(加藤和也)やシュウ子(赤川修平)らを交えて大歓迎会。

春ちゃんは、
自分から言い出した事とは言え
10年ぶりの再会に戸惑い、酒で誤魔化しはしゃぐばかり。
その昔、流行のユニセックス系歌手としてリリースしたシングルレコード
「しみったれた女」のB面、
「夢のはてまで」を生歌で披露したりしている。



生歌が終わり、大人の竜一の独白。

「あの人の優しくてどこかさびしげな歌声は、
これまでのあの人生を思わせるようだった。
だけど

キライだよ。」



ハッチとペコとてっちゃんのユニットの歌と踊りなども飛び出し大盛り上がりの最中
子供らは離れたカウンターに座りっぱなしで、
春ちゃんとは話そうともしない。
カウンターの中に入って二人の相手を勤めるてっちゃんと彼らのほうが、
まるで本当の父子。

そんな風に、
結局何の進展もなく明日になってしまうのかと思っていた矢先。

飲みすぎた小坂のおばさんの介抱のために全員が出払った隙に、
竜一は徐に席を立つと
先ほどハッチが皆に見せびらかしていた昔の彼氏の写真を手に取り、
見つめる。
戻ってきたハッチに「返して」と言われると、
堰を切ったように、急に写真を持って逃げ始め
ついには破り捨ててしまった。

泣き崩れるハッチに謝りなさいと強く促す春ちゃんは、
何も言わない竜一をつい叩いてしまう。
竜一は爆発したように暴れ始め、店の物をめちゃくちゃに放り投げる。



「本当は、心の中で何度も何度も『ごめんなさい』と言っていた。
なんであんな事をしたのか分からないが
幸せそうに写真を見つめるあの人を見ていたら、無性に羨ましくなったんだ」



皆が寝静まった夜更け。

寝つかれない様子の春ちゃんが、
紫のシルクのパジャマに身を包み、物憂げな表情でジュースを飲んでいる。
ペコと小坂のおばさんのいびきで眠れない千明がやってきて、
春ちゃんに10年間の思いをぶちまける。

なんで今更私達を呼び寄せたんですか。
今までどんな思いで私と竜ちゃんが暮らしてきたか分かってますか?
ムシがよすぎると思わないんですか!?

せめて、5年前のあの時だけでも。
母親の葬式にも顔を出さなかった事を責め、なじる千明。



次の日の朝。

竜一がいなくなった。
てっちゃんもいない。
てっちゃんが竜一を連れ出したのかもしれない。
とにかく手分けして探す面々。

一人店で連絡を待つ春ちゃんの元に、
てっちゃんが一人で帰ってきた。
本妻宅に帰っていたらしい。

「こんな時に」と、
自分とてっちゃんの問題と竜一の失踪をごちゃ混ぜにして
やつ当たりする春ちゃん。
てっちゃんが穏やかになだめればなだめるほど興奮する。

二人は、もうお互いいい歳なのだから
将来の事を考えて
てっちゃんは自分の家庭に帰り、
春ちゃんは子供を引き取ってやり直すという別れの結論を出していた。
お互い納得した結論のはずだったけど
事を急ぐてっちゃんに疑問を隠せなかった春ちゃんは爆発する。

「こんな年になって捨てられて、引き取った子供らとは一晩でこうよ。
てっちゃんがいなくなったら、私どうすればいいのよ!

私、てっちゃんが一緒にいてくれるなら
子供らとは無理して一緒に暮らさなくてもいいと思っているのよ。」

その会話を、竜一が聞いていた。
店から居なくなったと思っていた竜一は、
ずっとカウンターの中に隠れていた。

初めてまともに喋りはじめる竜一。

「あんた、なんで僕達を呼んだの?
少しは期待してたのに。
どうせ僕は誰にも必要とされてないんだよね!?」



店を飛び出した竜一をてっちゃんがなだめて連れ戻した。

春ちゃんはずっと2階から出てこない。
帰り支度をせかす千明に、てっちゃんが
「帰るならそれでもいい。だけど話し合ってからでも遅くはない」と提案する。

降りてきた春ちゃんと話し合いを始める千明。
今回の引き取り話に二人の別れ話が絡んでいると聞いて
この10年間、私と竜ちゃんがどんな思いで暮らしてきたのか分かっているのか、
ずっと気になっていたのなら、なんで母さんの葬式に来なかったのかと問い詰める。
春ちゃんは葬式には出席したけど、二人には会わずに帰ってきたとてっちゃんが説明する。
今更そんな事を言われても納得のいかない千明は、
なんで二人が別れるから私達が引き取られなければいないのか、
そんな勝手は許せない、
竜一は自分が連れて帰って一緒に暮らすと言い出す。
「姉ちゃんはいつだって竜ちゃんの事を考えているからね」

竜一が反論した。

「何言ってんだよ。
いつだって自分の事で精一杯だったくせに。
誰も僕の事なんて気にもしなかった。
みんな自分のことで精一杯だった。

みんなだいっきらいなんだよ。
あんたも、あんたも!!」

店中をめちゃくちゃにする竜一。
そして興奮を押さえ込むかのように
荷物から取り出したブランケットに顔をうずめて震え出した。

そんな竜一の様子を見て、
てっちゃんは昨日目にした竜一の背中の傷の事に触れる。

「竜一君は、お母さんから折檻を受けてたんじゃないのかい?
だから時々混乱してこんな風になるんじゃないの?」



「そんな事はなかった」と泣きながら否定する千明。

竜一の記憶の中の母親は、
いつも疲れた顔をしていたけど、優しくて綺麗なひと。

それは母親に折檻されていたという辛い記憶を封じ込める為に創り出した
偽りの記憶だった。

黙って震える竜一に、
春ちゃんが問い掛ける。

「本当なの?竜一。お願い。本当の事を話してちょうだい。」

・・・

父さんがいなくなってから、陽子が、お前に・・・?」

息子が、自分の所為で生まれた
家庭のひずみの全てを背負ってしまったと知ったとき
父親に戻った春夫。

竜一は少しずつ語り始めた。

「父さんいなくなって、母さん僕の事嫌いになったみたいで・・・
だけど僕はどんな事があっても母さんを嫌いにならないって決めたから
だから、母さんの嫌いなところだけ忘れようと思って。
そうしたら、いいことも悪いこともみんな忘れちゃって。
僕、母さんの顔ももうはっきり思いだせないんだ・・・」



うそだ、そんな、母さんは優しくて綺麗で・・・
大人の竜一が否定する。



「父さんの所為で、お前が・・・竜一!」
息子を抱きしめる春夫。



嫌な事があると押入れに篭ってブランケットを被っていた。
そうしている間はなんにでもなれた。
正義のヒーロー、宇宙飛行士、パイロット。
ブランケットは、
春夫が家を出る前に愛用していたものだった。
父さんのブランケットを、ずっと大事に持っていた。



大人の竜一が語る。



それから僕たちは一旦田舎に戻って出直して、
中2の夏休みから中学を卒業するまで3人で暮らした。
だからと言って、俺も姉貴も完全にあの人を許した訳ではなかった。

それから30年間、一度も会っていない。



じゅんちゃんを相手に30年前の出来事全てを語り尽くすうちに、
いつの間にか夜が明けていた。



娘のまなみが立っている。
子供は一人で生んで働きながら育てると言う。
意地を張る娘が自分に似ていると妻に言われ
「俺とまなみは違うだろう」と言い返すと


「違わないわよ。あなたと私は親子なんだから」

親子。

思い出した。
タイムカプセルに入れたものは、ブランケット。

娘の「親子」という言葉に押されるように、電話をかけた。

すっかり老け込んだオカマの春ちゃんが
寂しげな様子で受話器を取る。



「もしもし。俺。竜一。
・・・元気?
父さん。」