劇団イナダ組 第26回公演 「ライナス」
〜脚本・演出 イナダ〜
観劇レポ <感想編>

 

 

あらすじ、最後の大事なところが記憶曖昧でした。
大人の竜一の家族とのやりとりのところ。
「子供が俺みたいになっちゃったらどうするんだ」とか
「あなたと私は親子なんだから」とか、
印象的な台詞は覚えてるんだけど・・・。
書くまでに時間経ちすぎちゃいました(泣)
多分何かが違うと思う・・・。誤魔化しちゃいました。



さあ、感想です。

面白かった。
今までに観たイナダで1です。
と言っても生では3つくらいしか観てないんですが(笑)

どこが面白かったのか、と具体的な言葉をもって頭で考える前に、
初めて観劇中に一度も時計を見なかったという事実でもって
いかに自分が舞台にどっぷりはまっていたのかを知ったのでした。
もう一秒たりとも目を離したくなかった。

なんでかな、と今だから出来る分析をするならば。


ひとつ

春ちゃんの色っぽい動きから目が離せなかったから(笑)

なんでしょうあの色っぽさは・・・。
あの爆笑王・大泉洋が、色っぽいオカマ、いや女になっちゃてる。
普通のシーンの立ち居振舞いはもちろん、
てっちゃんと大喧嘩して怒号するシーンでも、正に女。
ヒステリックに叫ぶシーンなど、なんて女の気持ちを理解し切ってるんだろうと思いました。

あの忙しい最中でよくあれだけの役作りが出来たものだと感心してしまいます。
いや、忙しい中だったから脂が乗り切っていたのかも。
8/10のサンサンサンデーの中で言ってたんだけど、
今回ばかりは舞台に上がれない、とさえ思うくらいギリギリの状態だったようです。
さもあらん、
映画だ茄子の舞台挨拶だポプコンだトークショーだと色々あって、
見てるこっちまでハラハラしてたくらいです。
オリジナル曲の「夢のはてまで」も、ゲネプロまでまともに歌えなかったとか。
「『絶対出来る』と自分を信じるしかなかった」
その気迫が演技で伝わったのかなぁと思います。

映画での役作りもある程度メディアで見ていたので
そのギャップでも楽しめました。
数日後、茄子〜での声優ぶりを観て、
全く別のライン上にあるそれぞれの役作りに
改めて多才ぶりを実感したと言うか・・・。
なんでしょう、褒めすぎですか?(笑)
じゃ一つ落としておきます。
楽日前日の2日に観た時は、初日よりは若干男っぽい春ちゃんになってたのが残念でした。

でも、
「本業 舞台役者 大泉洋」と言う言葉がよく出てくるけれど、
確かにテレビなどでしか洋ちゃんを知らなかった頃に観た
舞台での「大泉洋」は新鮮だった。
でも慣れてくれば「舞台役者」として捉えるのが当たり前になっていて
演技そのものに感動を覚えるという事は
正直、さほどなかったので。

それだけに今回は「やってくれたな」と(笑)

それにしても、あのハイヒール・・・。
よく入るのあったなぁ。
やっぱりオカマちゃん御用達のお店とかで仕入れたんでしょうかー?


ふたつ

時間経過

40年前、35年前、30年前、現在
と時間経過が複雑に入れ替わる今回のお話。
どこかで分かりづらかったら
取り残されて舞台に集中できなくなっちゃうと思うんですが、
セットを使って上手に前後を見せてくれたなぁと思います。

舞台向かって左のバーカウンターと右の応接セットは
現在の話になると、
カウンターは竜一行きつけのジュンちゃんのお店で
応接セットは竜一の自宅。
30年前の話になると、
カウンターはチェリーボーイのカウンターで、
応接セットはボックス席。
照明の具合でそれらしく見えるもんですよね。
分かりやすくて、話の前後に取り残されて迷子にならずに済みました。


みっつ

楽しいところは楽しくて、シリアスなところはシリアス

今の今までどっと笑ってたのに急にシリアス
という場面があまりなかったような気がします。
楽しむところ<チェリーボーイで歓迎会>
のところはギャグあり床本さんのはじけシーンあり
歌あり踊りあり、なんでもアリ。
ハッチは本当にリアルなオカマちゃんでしたねー。
ああいう人、絶対いる(笑)
私は春ちゃんとハッチのかけあいが結構好きです。
そこでいいだけ楽しんで、
次の日の朝のシーンからは怒涛のシリアスシーン連続。
どうも頭の切り替えが遅くて、
ギャグがあるといつまでも笑ってしまう私には丁度よかったです。



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とっても寂しい人たちの、とっても寂しいお話でした。
初めて、ほんのちょっぴりだけど泣いたお芝居です(照)

虐待を続けてきた陽子も、
分かっていて苦しくて変りたいけどどうにもならなくて
ふと見つめた窓の下に吸い込まれてしまったのかなぁと思いました。

それとは対照的に思いっきり変貌を遂げた春夫ですが(笑)
好きにやってきたようで、
中年オカマちゃんになってから大切な恋人に別れを告げられて、
寂しさから子供達とやり直そうと思っても
10年間の溝は深くてうまくいかない。
オカマとして精一杯やってきたようで、
何故か三鷹という住宅街に店を構えているあたりにも中途半端さが伺える。
(三鷹の事教えてくださった皆さん、アリガトウ♪)

春ちゃんを捨てて家庭に戻ったてっちゃんも
それでハッピーエンドって訳にはいかないんでしょう、きっと。

千明もそれなりに心に傷を持っている。
度々同じ屋根の下で繰り広げられる折檻。
母子3人が暮らす、多分あまり広くはない家の中で
母親の罵声や弟の泣き叫ぶ声が響き渡って
姉も辛い時を過ごしたんでしょう。
竜一に思い出させたくなかっただけではなくて、
助けられなかった自分を責める気持ちも手伝って、
自分も思い出したくはなかったはず。
幼児虐待って、ニュースなどを見ていても兄弟のうち一人だけ受けるケースなどが多いように感じますが
他の子も、そんな情景を見せられるだけで同じような痛手を心に負うものなんだろうなと思いました。
だから千明は強くなりたかった。
でもその姿は竜一には自分のことしか考えていないと映っていた。

一番寂しくて哀しい存在の竜一は
選ぶ事を恐れて自分の考えが言えない大人になって
家族に愛想をつかされいてる。
(でも、伸子は夫を多少理解しているように見えたけど)

それぞれ健気に生きてきたのにすれ違ってしまう。



話がびょーんと飛ぶんですが、
私は勝手に
「ドナドナ ラーギット ライナス」で
三部作完結だと思ってます。(ホントに勝手ですね・笑)

ドナドナの、デフォルメされた冷め切った現代の家族関係。
ラーギットの、家族のような暮らしをしている他人同士の自分勝手。
ライナスは、バラバラになった家族の悲しい関係。

ドナドナもラーギットも
所詮人間なんて勝手なもの
どうして人は繋がりあって生きてるのかなんのために生きてるのか
そんな思春期のアイデンティティー・クライシスを
再び考えさせられるような
救いようのないダークな話ばかりだった中で
ライナスは辛い題材の中にもほんのり暖かさを感じました。


竜一は、素直に接する事ができなかった父親の代わりに
オカマの父の面影と重ね合わせて
じゅんちゃんには素直になれるのかな、と思いました。
本当はずっとそうしたかったように。

オカマに父の面影を重ねるとは、世にも珍しい話ですが(笑)

5歳で生き別れてから
そこに存在しない父親の代わりはブランケットで、
ずっと心の拠り所にしていた
・・・と言うか、
この状況から助け出してくれるのは父しかいないと
幼い心の内に無意識に助けを求めて
ずっとずっと待っていたんでしょうね。
そのうち父親という存在はぼやけて不確かなものになってしまった。
けれどそれしか心を寄せるものがなかったからずっとブランケットを被っていた。
だからハッチが、
「前の彼氏」というはっきりした存在に励まされているのを見て、
羨ましかったんじゃないかなーなんて思いました。

切ないですね。

そんな竜一の辛い体験を知って、
10年間オカマとして生きてきた春ちゃんが一瞬父親に戻って
息子の気持ちに応えた。
求めない事に慣れてしまって素直に受け入れられなくて
そのまま大人になってしまった竜一も、
30年も経ってから改めて、
虐待の記憶と共に、父親の存在を求めていた事を思い出して
選んで求める事に一歩近づいた。
娘とも少し歩み寄るような予感。
家族はやっぱり繋がっているんだよーと、前2作をひっくり返してくれたような
救われた気持ちでした。



このラストがいーんですねvv
「元気?父さん・・・」
と言って客席の遠くを見つめるたくちゃんの演技は
泣いているのかな?と思ったんですが
本当に泣いてたらしいですね。
(8/10サンサンサンデーで言ってました)
残念ながら役者さんの表情まで見える席じゃなかったのだけど
遠くからでも分かる静かな泣きの演技。素晴らしいっ(笑)

あとたくちゃんに関して言えば、
語り部的存在で、実際には存在しないはずの
30年前の出来事の中にずっと居るじゃないてすか。
殆ど台詞もなくて、じっと傍観しているだけの役なんて
相当難しいんではないかと思いました。
でも見ていて邪魔じゃなかったです。
上手いなーと思いました。



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どうして春夫が女に目覚めたのか、
何がきっかけで家族を捨ててまでこの世界に飛び込んだのか
そのあたりの説明は
竜一のいきつけのオカマバーのママ「じゅんちゃん」の口から出る
「家庭を持った後や中年になってから目覚める人もいる」の言葉だけで片付けられてます。春夫が春ちゃんになるまでの詳しい心情に興味はあるけど
物語の中で描かれるとしたらやっぱり
「家庭を持ってから自分の中の女性に目覚めた。
どうしても男でいるのが我慢できなかった」と説明するくらいしかないですよねやっぱり。
だとしたら陳腐ですね。
やっぱりいらないです(笑)



そしててっちゃんみたいな男はイヤだなぁ(笑)
しっかりしていて優しいんだけど、
冷静すぎて煮え切らない。
人に正論説くけれど、感情的にならないのでてっちゃん自身の本当の気持ちはよく分からない。
春ちゃんみたいに、わざとイヤミを言って
感情時にぶつかってみたくなる気持ちが分かります(笑)

モリのパワーテンション勢いがない
ずっと優しい口調で淡々と喋る演技も
意外によかったです。
はぁ、でも一部パワー炸裂のシーンがありましたね。
あのシーンどうです、
歌、上手くなっちゃってませんでしたー?(笑)
楽日前日の2日は、春ちゃんに
「何日もやってるとだんだん声の伸びもよくなってきたわねぇっ」
なんて言われてました。



陽子は私とそっくりでした(笑)
折檻はしないまでも、
「もぅお母さん疲れてるんだからぁ〜〜〜」
なんてねちっこく言ってしまうあたり;;;;;;;;;;
でも、陽子よりは幾らかライトかな・・・?
どっちにせよ、
ああいう母親って家庭の空気を澱ませますよね(汗)<客観的に見て分かるもの
き、気をつけよう・・・。



最後に、えだっち。
最後の方の、母親の折檻を思い出すシーン、
泣かされました。
もうその一言だけですっ。



今回のお芝居でますますイナダ組が好きになりました。
ミュージカルっぽい路線も私は好きです。
今回のもCD欲しいですよ。
オリジナル曲ばんざーい(笑)