TEAM-NACS 第9回公演 「ミハル」 〜作・演出 佐藤重幸〜 
観劇レポート <ストーリー編>

〜お断り〜

長いです。無駄に長いです。
ストーリーの前後関係を思い出そうとすればするほど、長く、そして細かくなってしまいました。
気付けばどこを削っていいのか分からない状態だったのでそのままです。
そして細かい割にはあやふやで、間違っていると思われる部分があるかと思います。
ご了承ください。

 

ホテルのリアルセットが客入れのときから幕ナシで最初から見えている。

向かって右がベット、左が応接セット、その手前に望遠鏡がひとつ。
真ん中にドア。ドアの右横には大きな鏡。

脚本家のアナウンス。

本日は起こしいただたき、ほんっとうにありがとうございますっ。
いつくか注意事項があります。
携帯電話禁止です。電源を切ってください。・・・
切って下さいっ!?
私語は禁止です。
笑い声はOKですが
「あはははっなまらウケる」これはダメです。

てな感じのアナウンスでした。

楽日では、モリの挨拶もあり。
普段とは違うNACSを云々・・・と挨拶し、他公演の紹介。
モリプロ「改FEVER」のチラシの、チケット発売時間が
「10:00am」が「10:00pm」になってた事をお詫びして
「なんとか頑張りましたが発売は当初の予定通り10時amになりましたので、
申し訳ありませんが今すぐ ! 鉛筆で訂正してください。
鉛筆をお持ちで無い方は、お近くのTNPスタッフにお申し付けください」
と言うと、TNPスタッフが威勢のいい掛け声で
「はい鉛筆あります〜!!」と一斉に叫んでいたのが無性に受けました。





暗転。

スーツを着た若い男(大泉洋)がひざまづいて深刻な表情をしている。
その後頭部に銃口をつきつける、こちらもスーツ姿の中年男性(音尾琢真)。
若い男「あと一分待ってくれ・・・」

そこにルームサービスの注文を取りに入ってきたベルボーイ(佐藤重幸)。

銃を見て慌てるベルボーイ。受話器を手にして110番を押そうとしながら
「僕を撃ったら最後のゼロを押す。元より銃声などしたら大勢の人がやってくる。ここは18階だ。一体何人の人にお前の顔を目撃されるか。そうしたらお前も逃げられない」
などと上ずりながらなまくしたてて、すっかり慌てた様子。

銃を持った男に「落ち着け」と促される。

ベルボーイはなおも取り乱し、ついに最後の「0」を押した。

その瞬間、「山口百恵ー!!」と叫ぶ若い男。

電話は何故か中年男性の携帯へと繋がる。
気付かず繋がった電話に事情をまくしたてるベルボーイ。
「1803号室です! 僕が撃たれる前に早く来てください!」
「今行きます!」と言って携帯を切る中年男性。
中年男性と若い男は、二人そろってベルボーイに「どうしました!」と駆け寄る。

驚くベルボーイに、二人は「警察だ」と説明。
中年の男が安藤警部補、若い男が後輩の岡田巡査部長。

110番がなぜ警察官の携帯に繋がるのかと訊かれ、
「GPS機能を利用して一番近くにいる警察官に繋がるのだ」とめちゃくちゃな説明。
ベルボーイは納得のいかないまま、注文のカツサンドとコーヒーをせかされ退室しようとする。
が、「なんだか悔しい」と踵を返す。

「山口百恵」の説明を要求され、安藤は
過去の出来事から人物を特定する訓練だと説明する。
たかだかクイズで銃口をつきつけていたのか、と訊くベルボーイに
いきなり発砲する安藤。ベルボーイの腹に命中して「いでででで!!」

持っていた銃はエアガン。
「今の警察はこんなでかい銃は持たない。」
「ちなみに僕のはこんなです」と小さな本物をつきつける岡田。
「しまってください ! 」

ベルボーイに早く去るように促す岡田。
が、そう言いながらも安藤はまだベルボーイに何か言いたいことがある様子。

ベルボーイがドアを開けて去ろうとした瞬間、
「こいつ超能力者なんだ!」
と叫ぶ。

岡田は、痛みを感じた時だけ、相手の過去が全て見えてしまうという超能力者だった。

面白がって誰にでも秘密をばらしてしまう安藤に辟易する岡田だが、
尊敬する安藤の頼みを断れず
信じようとしないベルボーイの過去を仕方なく読み取る。

安藤にスリッパで頭をしばかれる度に
ベルボーイの過去をぴたりと言い当てる岡田。
「山口百恵」も、人から過去を読み取る逆の訓練・過去から人を読み取る訓練のためだった。
それができれば、迷宮入りした事件の解決などわけない。
しかし星の数ほどある未解決事件の度に痛めつけられるのはごめんだと岡田は嫌がる。

驚き、面白がるベルボーイ。
口の軽そうなベルボーイを牽制して、岡田は
「誰かに話したらお前の秘密もバラす」と脅す。
結局こうやって人から敬遠されるのが嫌だと嘆く。

「それだけは勘弁してくれ ! 」と泣き崩れるベルボーイ。

その秘密とは・・・
昔、好きだった同級生の女の子「アサノアキちゃん」の縦笛を盗んで
肌身離さず持っていた。

本来なら10年は豚箱にぶちこむところだが・・・と、縦笛の吹き口を嘗め回す安藤。
「これで勘弁してやる」
さっさとルームサービスを持って来い!
とたきつけられドアに向かおうとするが、
まだ訊きたいことはある。

さっきから二人は、望遠鏡と双眼鏡で向かいのホテルの様子を伺っている。
(舞台上では、二人が見ている方向は客席。
客席に望遠鏡と双眼鏡を向けて、まるで観客が監視されているよう。)

「何してるんですか?」ベルボーイが尋ねた瞬間、
突然ドアが開いて

アニマルプリントのブリーフ一丁の男が入ってくる。
ムダに様々なポーズで肉体美をひけらかし、低いドン川上のような声で話すその男は
カリスマAV男優・三枚舌のキノコと異名をとるキノコ山本(安田顕)だった。

AVの隠し撮り撮影がこの部屋であるから来たと話すが、どうやら段取りを間違えた様子。
時間を確認しようとして左手に目をやるが、時計はない。
「あー時計忘れたー」
「その前にもっと必要なものがあるだろう!」ぱんつ一丁のキノコに岡田がつっこむ。
股間から携帯を取り出して監督と連絡をとろうとするが、留守電。

実はキノコの大ファンの安藤、自分のYシャツの背中にサインをせがむ。
そして捜査の邪魔になるにも関わらず、好きなだけ部屋でAVのスタッフを待っていいと言い出す。

キノコから流しそうめんのオーダーを受けて、再びベルボーイが部屋を去ろうとすると

今度は九の一の格好をした男が何者かに追われて部屋に転がり込んだ。

無理やりなポニーテール、真っ赤な九の一衣装に網タイツ。メイクまで施した異様な男。
男は編集者の締め切りに追われる、ホテルで缶詰中の
自称田田中章受賞作家・ナガミネゲンゴロウ(森崎博之)。
登場人物になりきらないと書けないという性分から、
ベルボーイ曰く「由美かおるのできそこない」のような格好をしていた。
しかし実は、今は落ちぶれてVシネマの脚本執筆が主な仕事で
今回も九の一が登場するVシネマの脚本執筆中だった。
が、一ページも書けずに関係者に追いまわされていた。

ナガミネは随分なお調子者のようだ。

ナガミネもルームサービスのオーダー。
手こねハンバーグを要求。
「ホテルでは機械でこねている」と言われ、それなら自分でこねるから材料を持って来いという。

いつまで居座るつもりだと咎められ
「アイデアが浮かぶまで匿ってくれ」と懇願。
つっぱねるが、キノコの「いいんじゃなーい」の一言につい「しょうがない」と認めてしまう安藤。

再び望遠鏡の前に戻る安藤と岡田。
「ところで、何をしているんだ」

「見張っているんだ」

ベルボーイとキノコとナガミネの3人、
「ミハル!?」




容疑者の張り込み中であることを説明。
何の事件か聞かれて、
先月、駅前の日の出銀行で起こった強盗事件だと言う岡田。

巷でも有名なこの事件を皆知っていた。

銀行に三人組の強盗が押し入り、現金を要求。
人質の客と従業員計四十人が皆殺しに。
犯人も全員射殺され、ただ一人生き残った警備員が重症を負った。
そして身代金として要求された1億5千万が消失。
迷宮入りしたその事件の事かと口々にニュースで知り得た情報を話す。

キノコは、犯人は全員射殺された筈なのに誰を張っているのか問う。
岡田が「警備員だよ」と口を滑らす。


警察は、ただ一人の生き残りである
重症を負った警備員を共犯と睨んでいる。
警備員は昨日まで入院していて、今日から向かいのホテルに滞在中。
それを見張っていたのだ。

「でも警備員も重症だったんでしょう。」とベルボーイ。
「太ももに銃弾を受けて大動脈を損傷し、出血死寸前の重症だが自作自演だ」と安藤。
自分も死ぬかもしれない賭けをする筈が無いという疑問があがると、
突然キノコの口調が変った。低くシリアスなトーンで
「警官隊がすぐに踏み込むのが分かっていたなら、それほど危険な賭けではない。
大動脈損傷と言っても処置が早ければ命に別状はない。
人間の血なんて、意外とゆっくり流れるものだ」

「キノコさん・・・」

驚く一同に、そ知らぬふりで元のキャラに戻り誤魔化すキノコ。

「入院中に事情聴取で会ったが、やつは絶対にウソをついている。」と、絶対の自信の安藤。
岡田は自慢げに
「安藤先輩はウソの匂いを嗅ぎ分けて、犯人の嘘を百パーセント言い当てる」と言う。
「超能力みたいだな」という言葉に、思わず
「超能力コンビだ ! 」
と口を滑らせるベルボーイ。

いぶかしがるキノコとナガミネ。

ここまで話を聞いてしまっては他人事ではないと、
居座って捜査に協力すると言い出す3人。
キノコの「いいでしょー」攻撃に負けてしぶしぶ承諾する安藤。
「ただし黙っていろ」
言いつけ通り、張り込みを続ける安藤と岡田の背後に黙ってぴったりとくっつき、邪魔臭い。明らかに妨害。

「分かりましたよ!」と更なる事件の詳細を話す岡田。

それまで望遠鏡を覗いていた安藤は、
ソファに座り込みうつむく。

客三十人と行員十人を人質に立て篭もった強盗班達。
客の携帯電話による連絡で警察が駆けつける。
それに逆上した犯人グループは人質を皆殺しにした。
そして警官隊が突入し、犯人全員を射殺。
警官隊が踏み込むまでのわずかな時間に
身代金の一億五千万は忽然と消えた。

銀行の警報ベルは切断されていた。
犯人が押し入ったと同時に押されるはずのベルが既に切断されていたのだから、
犯人グループの仕業ではない。
やはりこの事件には内部の共犯者がいる。それはやはり警備員しかあり得ない。
しかし警備員も瀕死の重傷ですぐさま救助されたので、
現金を持ち出す時間はなかった。

別の共犯者がいるのだ。

「犯人を全員殺したのが行き過ぎだと世論を騒がせたろう。
犯人を生け捕りにして罪を償わせるのが警察の勤めだ」
というナガミネに、激怒する安藤。

「被害者の家族が一番望んでいる事は、家族が生き返る事だ。
人殺しに罪を償う方法などない! 」

その時現場の指揮をとっていたのは安藤だった。

安藤は警官隊の暴走を咎められて、事件の捜査から外されていた。
今回の張り込みは越権行為で、
岡田は安藤を放って置けなくて行動を共にしていた。

張り込みがばれたら免職。
犯人を挙げたら辞職するつもりだと打ち明ける安藤に、
「先輩の過去を知ってるからこそ尊敬してついてきた。
辞めるなんて言わないでください」と思いとどまらせようとする岡田。

安藤には秘められた過去があるようだ。

「しかし犯人が銃撃してきたなら、正当防衛だろう」と言うキノコに、
「正当防衛なんて言葉は市民のための言葉だ。
捜査は市民の安全第一で、警官の安全は考慮される事は無い。
いつだって僕ら警官の命は二の次だ」という岡田。

「そういう訳で俺には後が無い。だから邪魔するな」

雰囲気を蹴散らすかのようにベルボーイにルームサービスを再び言いつける。
ベルボーイ退散。

それにしても田中は何をするでもなく、ずっとTVを見て笑っている。
一体何がしたいのだろう。

「面白がって悪かった。だから犯人の心理を推理してやろう」と
提案するナガミネ。
犯人の細かな情報を要求する。

手帳を取り出し、岡田が説明し始める。
田中一郎31歳、実家の電気店が倒産し
職を転々とする。
一番長い勤めでレンタルビデオ店に2年。
銀行の警備員には半年前になったばかり。

「平凡すぎるあの男にそんな犯罪が犯せるわけが無い。犯人ではない」
というナガミネ。

ベットに寝転んで意味不明な体操を続けていたキノコが、
再びシリアスなトーンで呟く。
「普通の会社員がある日家族を惨殺する事件なんてはいて捨てるほどあるだろう。
善人が悪人に変る事など簡単だ。良心のたかはきっかけさえあればいつでも外せる。」

推理は続く。
ひょろりとした体格で特に武道に長けている訳でもない田中一郎。
警備員になる為の資格は特に無いが、普通は体力に自信のある者が就く職業。
それでも田中が警備員になったのは、既に事件の計画があったからだろう。

結局キノコが殆ど推理した。ナガミネは役立たず。

そこへVシネマ関係者が訪れて、岡田がナガミネをあっさり引き渡す。

3人になった部屋で静かに張り込みを再開、しようとしたらキノコがいきなりくしゃみを放つ。
安藤に言いつけられて、岡田はぱんつ一丁のままのキノコに「あんたどこからこの格好で来たんだ」と言いながらガウンを渡す。

着かけては話しはじめて脱ぎ、着かけては話しはじめて脱ぎを繰り返しながら
安藤に話し掛けるキノコ。

「事件の整理をしよう。
田中が負傷してから警察が踏み込むまでに現金を持ち出す時間はなかった。
現金を持ち出す機会があったのは警察だけだ。」

「警察がそんな事をするはずがない!」激怒する岡田。
安藤は
「確かに踏み込んだ直後は警官隊や救助隊でごった返していた。
その状況で警察の誰かが現金を持ち出しても気付かれる事はないだろう。」と冷静に認める。

そして犯人全員射殺の話へ。

犯人を射殺したのは、安藤本人だった。

「もう殺すな。何人殺した」
「・・・3人」
「全員か。多分一人目より二目のほうが引き金が軽く感じただろう。殺人なんて一人殺すと二人目からは良心の呵責も薄れる。
だがあんたの目を見ていると人を殺したなんて信じられないくらいだ。
まだ大丈夫だ。これ以上殺すな」

「あんたは一体何者なんだ」
と問われてまたとぼけるキノコ。「カリスマAV男優・三枚舌のキノコ山本!」
フィニッシュ業のヨガのポーズでトランス状態に陥ってしまった。

「あの人は只者ではないから過去を読んでみろ」と言われた岡田だが、それはできなかった。
何故なら岡田は、自分が「この人には過去に重大な秘密がある」と疑った人物の過去は読み取れなくなるから。

そこへベルボーイがルームサービスを持って戻ってきた。

「はずしてくれー!!」ヨガのポーズが実は苦しかったキノコ。
ヨガを解いてやってもなおトランスから覚めやらぬキノコをベットに運び、
脚立と竹筒と大きなポリタンクとタライをセットして、部屋に流しそうめんのセットを組み込んだ。
安藤と岡田にはアンパンと牛乳。「刑事の張り込みと言えばコレ」と気を利かせたつもり。
安藤の腹いせに、トランス中のキノコに代わり一人流しそうめんをするように言いつけられる。
当然取れるわけが無い。一人で奮闘。

その横で深刻な話を始める二人。
「なぜ殺したんです。どうして先輩がそんな事を・・・」
「お前は人の過去が分かっても、その時の感情までは読み取れない。
あの過去の事件で俺が何を見たかは分かっても、どう感じていたのかは分からないという訳だ」
「そうです・・・だから先輩・・・  おい鬱陶しいんだよ!」
怒鳴りつけられるベルボーイ。

ナガミネが今度はE・Tのかぶりもので自転車に乗って登場。より頭が大きい。
「なんでE・T自身が自転車に乗って来る」という岡田のツッコミも無視して
ハンバーグを手こねしてホットプレートで焼き始める。
会場中に漂う香ばしい肉の匂い。

キノコも復活
「なんだか深刻な話をしてたみたいだねー」
聞き耳を立てていたらしい。
そして流しそうめん。

再び深刻な会話を続ける二人。
「僕は先輩の過去を知っているからこそ尊敬している。その先輩がどうして・・・」
「そうだ。お前は俺の事はなんでも知っている。あの時俺の目の前で何が起こったのか知っているのは俺とお前の二人だけだ。」

「どうしてあの人はそんなに彼の事に詳しいの?履歴書でも読んだの〜!?」
茶々を入れるナガミネ。秘密を喋りたいベルボーイ。

「こいつ超能力者なんだ!」
またまた安藤がバラしてしまう。悔しがるベルボーイ。
バカにするナガミネの過去を読み取るように指図する安藤。
スリッパを取り出す。
「また ! 大体なんでいつもスリッパ持ってるんです」
「スリッパマニアなんだ。つべこべ言わずやれ! ・・・尊敬する先輩の命令だ」
「・・・分かりました」

余裕の表情で信じていないナガミネ。
しかし、ナガミネがスリッパで岡田の頭をしばいた瞬間、
岡田は「ナガミネさん、あんた・・・」と言葉を失う。

ナガミネは昔確かに、地元の出版社に持ち込んだ小説が認められ、編集長の名のついた「田中賞」を受賞していた。
リアルな殺人シーンが絶賛を受けた。

しかしその小説は、事実を基に描かれたのだった。

ナガミネは、20年前に殺人を犯していた。

当時地元の劇団で、役になりきる演技で人気を博す俳優だったナガミネ。
ある日回ってきた役が「人殺し」の役。
どうしても役がつかめず苦悩して、毎日暗い部屋でナイフを見つめて半ノイローゼ状態に陥った。
そこへ心配して訪れた恋人が慌ててナイフを取りあげようとしてもみ合い、
誤って殺してしまった。

ナガミネは恋人を神社の敷地に埋めて、恋人は行方不明として事件は解決した。

そして公演は見事に役を掴みきった演技で好評のうちに終了。
その後ナガミネは退団して、
今度は殺人の体験を基にした小説を出版社に持ち込んで、そこでも成功を収めた。

事件の詳細を岡田の口から聞かされて、慌てて自転車に乗り込み逃げようとするナガミネ。
あっさりと取り押さえられ、説得される。

「逃げてどうする。大体自転車で逃げてドアどうやって開けるつもりだった」

「・・・やっぱり逮捕されるのか」
「いや。あんたも知っての通り、殺人の時効は15年だ。それに僕が読み取っただけで何の証拠も無い」
「そうか・・・」 ほっとした様子のナガミネ。

突然キノコが激怒する。
「ほっとしたのか。お前は最低だ。
殺した奴が殺された人間に出来る事はただひとつ、『受け入れる』事だ。
殺した奴がその事実を受け入れなければ、その魂はどうやって救われる」
ナガミネを殴りつける。

「本当に殺すつもりはなかったんだ。」言い訳するナガミネ。
「では訊こう。本当に殺意はなかったのか」
再び掴みかかるキノコ。

突然「アキちゃん」のリコーダーでアンパンマンマーチを吹き始めるベルボーイ。
どうやら緊迫した空気を緩めようとしたらしい。
「初めての共同作業だね、アキちゃん」

怒られて「まだ足りなかったかな」と再びガンダムを吹こうとして岡田に飛び蹴りをくらう。
「黙っていろ!」とsitの命令を下される。

少し落ち着いたナガミネは,彼女の両親に謝罪に行くと言い出した。
ベルボーイ「それがいい」
「やめておけ」
ベルボーイ「やめておけ」
またsitの命令を下される。

安藤「さっきも言ったろう。殺人を犯した者に償いの方法などない。
家族が行方不明と長年思ってきたんだから、そのままそっとしておいた方がいい」

岡田に全て知られてほっとしたと言うナガミネ。

「それよりキノコさん、あんたは一体何者なんだ。人の死について詳しすぎるんだ。
察するに殺し屋だな。それもプロの殺し屋だ」安藤が尋ねる。

キャラを戻してとぼけようとするが、制止される。

キノコは話しはじめた。

昔はプロの殺し屋だったが転身してAVの道へ。

「どうして殺し屋を辞めたんだ」
「どうしてだと思う」
ナガミネ「殺してはいけない人、つまり家族か誰かを誤って殺してしまって、嫌になった」
ベルボーイ「小さな女の子の父親をその娘の目の前で撃ってしまって今ではその娘は自分の養女。それで銃が持てなくなった」
どこかで聞いたような話だけど、どちらも違う。
安藤「AV男優になってきれいなオンナとやりまくりたかった!」
「正解!」

チビデブハゲで40まで童貞だったキノコは
財産をなげうって「とびきりの二枚目」に全身整形。
AV男優になってキレイな女とヤリまくる道を選んだ。
「昔は殺しの標的を、今は女を必ず天国に送る」

「お前は殺しを覚えた頃の俺とそっくりなんだ。もう後戻りできないと思っているところなどは昔の俺そのものだ。
だけどまだ戻れるんだ。」


張り込みに戻る。
ベルボーイが展望ラウンジからちゃっかり人数分の双眼鏡をギッてきていた。
全員で「ミハル」。

と、今までずっとTVを見て笑ったりひとり鍋で雑炊をしたりと全く動きを見せなかった田中が動き出した。

田中の部屋に電話がかかってきたようだ。
しきりにメモをとり、コートを着て外出の用意を始めた。
しかし何故かメモを持って行かなかった。

「せっきがーいせーん!」赤外線でキノコと携帯番号を交換した安藤は、岡田と共に向かいのホテル前へと急ぐ。

キノコは、ベルボーイに
「田中の部屋へ行ってメモを見て来い。ベルボーイの格好なんて似たり寄ったりだから、たとえ別のホテルでも一般人は気付かない。田中に見つかったら『部屋の掃除に来た』とでも言え。
行かないと殺す」と指図する。

赤外線でキノコと番号を交換して、しぶしぶ偵察に出かけるベルボーイ。

双眼鏡で様子を伺うキノコとナガミネ。
するとベルボーイが不審な動きを見せた。
ギリ癖が出て、田中の所有物を物色して、リュックを背負っている。

慌てて電話するキノコ。
「何をしている!はやくリュックを戻せ!」

悪い奴のものだから少しくらいいいだろうと言って放そうとしないベルボーイ。

早くメモを見るように指示されて見るが、残されたはずのメモには何も書かれていない。
「どういう事だ・・・」

そんな事をしているうちに田中が戻ってきてしまった。
クロゼットに隠れるように指示して乗り切る。

キノコは安藤達を呼び戻し、事情を説明した。

「コミヤ〜!!」岡田が叫ぶ。「コミヤショウタ」。そんな名前だったらしい。

安藤達の話によると、田中はホテルの外にも出なかったらしい。

「一体何がしたいんだ・・・からかっているのか。」

再び電話がかかってきてメモをとり、部屋を出て行く田中。
安藤達も今度はコミヤを心配して部屋で見守る。

早く逃げるように言う岡田と、メモを見てからだというキノコ。
コミヤがメモを見ると・・・
今度は「キン肉マンの絵。」

岡田が何か気付いた。
「この部屋の様子を伺ってからかっているとしか思えない」
「何をバカな事を言っているんだ」と安藤に叱咤される。

またすぐに戻ってきた。
隠れるコミヤ。

今度は腹を抑えてうずくまり、トイレに立つ。
「大きいほうだからしばらく出てこない。今のうちに逃げろ」と指示するキノコ。

コミヤがクロゼットから出た瞬間、田中がトイレから出てきた!
鉢合わせる二人。

と、岡田が叫ぶ。
「田中ーっ!! チャックさがってるぞ」
田中が反応した。下を見て確認している。
「ほらっ、やっぱり田中は聞こえてるんですよ!!」

人質にとられ、銃をつきつけられるコミヤ。
どこかに電話をかけさせられる。
と、1803号室の電話のベルが鳴る。
出ると、コミヤからだった。

やはり田中は全てを見ていたようだ。

電話をスピーカー通話にするキノコ。コミヤが仲介役になり、田中との接触が始まる。
田中の様子や発言は全て仲介役のコミヤの口から語られる。

岡田「どうして俺達がここにいる事が分かった」
コミヤ「キノコさんのお陰だそうです」
「キノコさん、まさかあんた・・・」

否定するキノコ。
そこに監督から携帯へ電話が。
AVの撮影は昨日だった。隠し撮りという設定の撮影だったが、カメラの撤収を忘れた。
キノコは鏡を振り返り、ゆっくりと近づくと鏡を取り外す。
カメラが現れた。

「今の隠し撮りというのは、仕込んだカメラの音と映像を無線で受信して拾うんだ。
ここいらホテル街一体ではそんな電波がごまんと拾える」

キノコの説明で全てに納得がいった。
田中は恐らくAVマニアで、今日も隠し撮り映像を受信して楽しむつもりでホテルにやってきて、
偶然1803号室の電波を拾ったのだろう。
レンタルビデオ店に2年も勤めたのはAV好きだったからに違いない。



「ミハル」はずか、

「ミハラレテ」いた。



田中の部屋では、全く人質の自覚の無いコミヤが勝手にチャンネルをかえたり
アンパンマンマーチを吹いて殴られたりしている。

岡田は訊く。
「どうせ全て聴いていたんだろう。お前は僕らが話していたような事をやったのか」

「安藤のお陰」と答える田中。

「どういう事だ!」

「安藤さんに訊けば分かる」

戸惑い、黙り込んでいた安藤は、岡田に詰め寄られて静かに話し始めた。
「・・・救助のために近寄った俺に田中が話し掛けてきた。
『現金を隠してくれ。あとで山分けしよう』。
警官隊や救助隊でごった返した現場で現金を持ち出すのはわけなかった。」

「どうして・・・先輩・・・」

笑う田中。

騙していたのかと詰め寄るキノコ。
安藤は、田中がこの部屋を伺っていたのは知らなかったと否定する。

先輩はそんな人じゃない。

安藤は、5歳の頃に居直り強盗に家族を殺された過去があった。

「だから先輩は一人でも多くの犯人を挙げるために警官になったんじゃないですか。
僕はそんな先輩を尊敬して・・・!」

「違う! 俺は犯人を挙げるために警官になったんじゃない。
復讐するためだ。
同じなんだ。あいつらは皆同じだ。
俺の目を見て、笑いながら両親を、妹を殺したんだ。
あの時、銀行に踏み込んだときもあいつらは笑っていた。だから殺したんだ。」

ナガミネに
「さっき人殺しに罪を償う方法などないと言ったが、ひとつあるんだ。死ぬ事だ。
だからこうする・・・」

遠く離れた田中に銃口を向ける安藤。

必死にやめるよう呼びかける岡田。
あいつを殺したら現金の在り処がわからなくなるぞと止めるキノコ。

「誤解しないでくれキノコさん。現金が欲しくて共犯になった訳じゃない。
やつを殺す機会がほしかっただけだ」

「あいつを殺して俺も死ぬ。おれも人殺しだ。ナガミネさん、あんたも死ねばいいんだ。キノコさんあんたもだ。みんな死ねばいいんだ!!」

キノコが隙をついて安藤の銃を奪った。

「素人には無理だ。俺がやる」と銃を構えて撃とうとするキノコ。
田中が逆上してコミヤを撃ったらどうする、と問われ
「あの銃はニセモノだ。本物ならあいつが手に入れられる代物ではない。」

田中を撃つキノコ。
しかし銃弾はコミヤが背負ったリュックをかすめる。
「・・・ブランクだ」

もう一度試みようとするキノコを岡田が止める。
キノコ「どうしてだ。こんな状況でもやつはコミヤを撃たない。やっぱり銃はニセモノだ」
岡田「銃がニセモノだという確証がなければ田中を撃つわけにいかない。
コミヤの安全確保が第一だ。第一警官として目の前で殺人が起こるのを黙認する訳にいかない」
キノコ「じゃあ、どうするんだ」
岡田「・・・僕を撃って下さい」

岡田は、自分が疑った人物の過去を読み取る事はできないが
想像を絶する痛みを受けたら可能だと言う。
「そんな事俺も知らなかったぞ」という安藤に
「当たり前です。僕だってそんな思いはしたくない」

「だから撃って下さい。そうしたら田中の過去を読み取って銃が本物かニセモノか分かる。
キノコさんならうまく急所を外せるでしょう」

「分かった」。

振り向きざまに発砲するキノコ。

そこに安藤が飛び出し、腹に銃弾を受ける。
「俺はお前の先輩だ。後輩をそんな目にあわせる先輩がいるか・・・」

「笑ってる・・・この人笑ってるよ」
スピーカーからコミヤの声が聞こえる。

「もう許せない。撃つぞ、岡田。」
「・・・いいですよ。やつの銃はニセモノです」

痛みを感じないと分からなかったんじゃないのか。ナガミネに訊かれる。

「・・・痛かったですよ。ここが。」
胸を抑える岡田。
「こんなに胸が痛んだのは初めてです。僕にも予想外でしたが、その痛みで読めました。撃って下さいキノコさん。但し・・・!」

「分かってる」と発砲するキノコ。

銃弾は田中の足を貫通した。

その隙に乗じて逃げるコミヤ。

「どうするんだ、岡田」キノコが訊く。

「消え失せろ田中 ! 二度と先輩の前にも僕の前にも姿を現すな!
今度お前を見たら、僕が殺す!」

逃走する田中。

「ダメだ・・・、ヤツを捕まえるんだ・・・」無理に起き上がる安藤。

安藤の頬をひっぱたく岡田。
「目を覚ましてください先輩 ! 捕まえたら先輩の事も明らかになるんですよ。
そうしたら先輩は警察を辞めなければならない。
先輩が警察官を辞めるなんて絶対にダメです!
僕はまだまだ先輩に教えて欲しい事があるのに・・・
今度警官を辞めるなんて言ったら・・・
僕が先輩を殺す。」

「安藤、いいかげんこいつの気持ちも汲んでやれ。
岡田はお前に警官を続けさせるためだけにやつを逃がして
自分の警察官としてのプライドに傷をつけたんだ。
悪いと思うならこいつの言う事を聞いてやれ。」

おとなしくなる安藤。

息を切らしたコミヤが戻ってきた。
半べそをかきながら、
「人殺しぃ〜!!」とキノコに穴の空いたリュックを見せつける。

何故か動揺する岡田。
「その・・・リュック! 早く!・・・早く中を!」

コミヤがリュックを開けてみて驚愕する。

逆さまにして中身を振り落として見せると、

そこには現金の山。



暗転。



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